仔犬/仔猫の社会化について

動物の生涯にわたる心身バランスの基本となる生後8週間の時期

▲成犬であっても人にならすためにシェルターではスタッフによりコミュニケーションの時間がとられる
▲成犬であっても人にならすためにシェルターではスタッフによりコミュニケーションの時間がとられる

犬は群れで暮らす動物であることから、意思の疎通や感情の理解といったコミュニケーション能力が発達しています。 猫は明確な群れを作るわけではありませんが、ゆるやかな集団の中で独自のコミュニケーションをとっています。

このコミュニケーション能力は生まれつき備わっているものではなく、生後3週~12週くらいまでの「社会化期」と呼ばれる時期に母親や兄弟と過ごすことで培われていくのです。

社会化期は、その過ごし方が犬や猫の一生を左右すると言われるほど重要な時期です。健康面での問題はもとより、この時期に親犬や兄弟と離して他の犬・猫との触れあいを経験せず、人間(飼い主)としか接していないと、精神的に安定しないまま成長してしまい、様々な問題行動を起こす可能性が高くなるのです。

▲猫舎。階段やソファーなど実際の家と同じ様な居心地の良い環境が整えられている
▲猫舎。階段やソファーなど実際の家と同じ様な居心地の良い環境が整えられている

しかし、日本ではまだ仔犬や仔猫の社会化期については認知度が低く、生後8週間未満の生体が展示販売されていることも珍しくありません。

アメリカでは、犬や猫の問題行動・健康問題は、幼少時の社会化期が大きく影響していると考えられており、わたしの住むメリーランド州をはじめ、ほとんどの州では、生後8週間未満の動物の売買や譲渡は法律で禁止されています。そして社会化を育むためにシェルターではパピークラス(仔犬の保育園)と言う教室が主催されており、ここでは犬同士、他の飼い主とのふれあい、基本のコマンド(おすわり、待て、伏せ)を教えてもらうことができます。

狂犬病と避妊/去勢

保健所の収容動物の減少に直接影響する重要な取り組み

▲シェルターに付属しているクリニックの内部
▲シェルターに付属しているクリニックの内部

アメリカは狂犬病の発生国です。ですから狂犬病の予防接種は飼い主と動物を譲渡するシェルーやレスキューに義務づけられています。そしてMD州では避妊去勢に関しても早期の避妊・去勢手術が一般的で、生後8週間または一定体重(1キロ)を超えると不妊手術が行なわれ、シェルターやアニマルレスキューの譲渡動物は避妊・去勢、狂犬病の予防接種が義務付けられています。

国を挙げて保健所収容動物の削減を目的とした避妊・去勢手術を推奨しているので、シェルターやアニマルレスキューでは譲渡の際に避妊・去勢手術が義務化されています。不妊手術を広めるためにシェルターに併設されたクリニックでは普通の動物病院より安い価格で(2,000円~3,000円程度)で実施、狂犬病の予防接種は500円程度で受けることができます。

▲シェルターが定期的に開催する格安クリニックの日。沢山の人が詰めかける。
▲シェルターが定期的に開催する格安クリニックの日。沢山の人が詰めかける。

日本の常識ではなかなか感情面で受け入れ難いことですが、私の住む州では、生後2ヶ月を過ぎた動物には避妊・去勢手術を実施しています。

動物病院では保健所収容動物の削減以外にもペットたちの健康面での不妊手術のメリットを飼い主さんに説明したり、ペットホテルやドッグラン、グルーミングを利用する時には、狂犬病の予防接種と避妊・去勢手術を済ませた動物しか入れないケースも多く、自然と予防接種や避妊・去勢手術に対する認識が高くなる仕組みができ上がっています。

成犬成猫の譲渡

▲シェルターに掲載されている成犬譲渡の利点が書かれた看板

アメリカでも子犬や子猫は人気ですが、日本ほど子犬&子猫志向が強くありません。どちらかと言うと犬や猫の飼育経験のない人の方が「小さい方がしつけがしやすい」と勘違いしていたり「かわいい」「長い時間一緒に暮らせる」と子犬や子猫を求める人が多いような気がします。

成犬や成猫のメリットとして「社会化やしつけがすでにされている」「性格や体型、運動量が把握できている」「人に慣れている」「健康状態が把握されている」「飼い主さんより寿命が短い」「他の犬や猫と上手くやれるかあらかじめ知ることが出来る」などたくさんあります。また成犬や成猫になるとペットショップやブリーダーさんでと言うわけにはなかなかいかないので、必然的にシェルターやアニマルレスキューからの譲渡になります。すると動物を家に迎えると同時に動物愛護活動にも一役かっていると言う社会貢献や、そして避妊や去勢、各種予防接種やマイクロチップなど子犬や子猫に必要とされる初期投資が、シェルターで既にされていると言うメリットがあります。

そのような成犬成猫の理点をシェルターやアニマルレスキューグループが頑張って周知した甲斐もあると思います。シェルターに訪れる譲渡希望者には「ハイパーの時期(大体2歳くらい)が過ぎた犬がいい」「体のサイズが判っている犬がいい」「トイレトレーニングが住んでいる猫がいい」「先住猫がいるので他の猫と暮らせる子がいい」と大人の犬猫が良いと言う希望者の方も多いです。

特にお年寄りの方は「自分が確実に見取ってやることが出来る老猫が」「手のかからない老犬がいい」とシニア動物の譲渡希望の傾向が強いです。飼い主さんが若くても先住ペットが老齢の場合も、先住ペットの環境が新しい子が増えることで激変しない様に、同じような生活パターンのシニア動物や性格が穏やかで運動量の少ない子を譲渡したがる方が多くいらっしゃいます。そのような年齢事情で言うと子供さんがいる家庭でも「子供に手がかかるから性格的に落ち着いた子がいい」と大人の犬や猫を探しているご家族も多く、シェルターやアニマルレスキューグループの中には小さな子供のいる家庭には傷害事件を防いだり、ペットが大きくなると世話を見ない可能性を懸念して成犬や成猫の譲渡に限定しているところもあります。

アメリカのシェルターでは日本と違い、大人の犬猫であっても子犬や子猫と変わりなく、新しい家を見つけるチャンスがあるように思います。

マイクロチップ、迷子札の普及

ペットの安全の為に飼い主が出来る事

▲マイクロチップは一センチ程度の大きさ
▲マイクロチップは一センチ程度の大きさ

全米では避妊/虚勢のほかに、マイクロチップの普及が殺処分ゼロへの一番の近道だと認識されています。

そのため大部分のアメリカのシェルターでは、譲渡動物へのマイクロチップの装着(マイクロチップの代わりに刺青を入れる所もあります)が義務づけられています。

(マイクロチップは米粒ほどの小さな大きさで、動物の母親が子どもを運ぶ際にくわえる首の皮下に装着するため犬や猫には痛みが伴わず生後2ヶ月の動物に装着することが出来ます)

▲迷子札が数分で作れる自動販売機
▲迷子札が数分で作れる自動販売機

迷い犬の保護数がマイクロチップの導入により減少傾向にあるのを受け、装着を導入するレスキューも年々増加。ペットホテルや動物病院によっては、利用時にマイクロチップの装着を条件にしているところが少なくなくありません。また、スーパーマーケットや街角に迷子札作成機が設置されているところもあり、それを利用すれば、1分足らずで可愛いデザインの迷子札を作ることができます(ひとつ100円~200円程度)。このような生活環境が、マイクロチップと迷子札の普及に一役買っているようです。

飼い犬や飼い猫の迷子は、放浪している時間が長いと痩せて首輪が抜け落ちてしまうため、アメリカでは迷子札とマイクロチップはセットでぺットに装着するものとして考えられています。

マイクロチップを入れるための料金は、だいたい2,000円~3,000円程度です。

【注意】このテキストは2010年9月の情報です。告知なく変更や訂正をする事があります。また、文中アメリカと表現していますが対象はメリーランド州に限定しています。アメリカの動物に対する取り組みや考え方は州法や自治体、生活形態により違いがあるため、内容が全米に共通している訳ではありません。

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